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記憶の墓場


昔住んでいた町に行くのは苦手だ。
余計なことばかり思い出してしまうから。
忘れてしまいたい出来事が、景色のあちこちにちりばめられていて、
うっかりよそ見をしようものなら、待ってましたとばかりに記憶のドアをあけ放ちに来る。
だからなるべく何も見ず、考えず、無心で歩く。
それでも時々ふっと目に入る宝石のようなきらめきに、一瞬心を奪われる。

そっか、嫌なことばかりじゃなかったな。こんないいこともあった。

だけど次の瞬間、ステキな思い出の後ろから、にんまりと顔を出す別の影。
私は立ち止まり、空を見上げて大きくため息をつく。
目を閉じて3秒。
それからまた、進行方向のただ一点だけを見つめて、心を真っ白にして歩く。

どうして記憶なんてものがあるんだろう。何の役にも立たない。
むしろ足かせになってしまうだけの、暗く重たい物語たち。
心の中に何十冊もうず高く積み上げられたそれらの、
なんと巨大で古びて汚れて異臭のして、全くもって邪魔なことか。

「すべて焼き捨ててしまえればいいのに」

またしても見上げた空は、抜けるように青くて、私は絶望的な気分になる。
さっさと用事を済ませて電車に飛び乗った。
体は疲れて喉も乾いていたけど、どこかでお茶でも、なんて気には到底なれなかった。
電車が一駅、また一駅と進んでいくにつれて、私の体は少しずつ軽くなる。
深い海の底からやっと戻ってこられたような気持ちになる。

空はまだ青い。
あの青年のことを思い出した。
この空のように青いTシャツで、真っ白な歯をのぞかせてニッと笑う、
私を世界一壊れやすいもののように扱ってくれた、
あの青年のこと。


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私の終わり


人間はいつでも「いかに生きるか」ということを考えている。
あれが欲しい、ここに行きたい、もっと幸せになりたい。
欲望は尽きることがなく、満足という言葉を知らない人間が巷には溢れている。
あまりにも夢を追い求めすぎて、
最近では「いかに死ぬか」という言葉まで語られ始めているらしい。

 いかに死ぬか。

じぶんの死については何年も前に考えたことがあって、
ぼんやりとではあるが、私は自分の死の瞬間の風景を描くことができる。
この先、今までの倍以上は生きる予定であるので、
近い将来のことではないが、かといって途方もなく先のことでもないだろう。

私が死ぬ時。
そこには平和で静寂に満ちた光景が広がっている。
とても大切な光景なので、おおっぴらに公開する気はないけれど、少しだけお話すると。

ある日の夕暮れ時、この上ない幸せの中で、私は安らかに息を引き取ると思う。
その傍らには、年を取って皺くちゃになった大切なひとと、大切なものと、大切な思い出があるだろう。
共に生きてきた伴侶の冷たくなっていく屍を胸に抱え、
そのぬくもりが消えていくのと同じ速度で、私の体は感覚を失い、
やがて魂は遠く遠く上っていくだろう。

いつの頃からか、そんな映像が私の中に生まれ、
それは日を追ってリアルなものとして、何度も脳内に刷り込まれている。
妄想と言われればそれまでだ。
だけど私は、これは予知だと思っている。
こんなに鮮明に、空気の匂いや光の具合まで感じられるのだから、
絶対にこれが、自分がこの世で最後に見る風景に違いないと確信している。


空飛ぶヴァイオリン


あるところに、ヴァイオリンがいました。
ふつうとはちょっとちがう ふしぎなヴァイオリンです。

ある日、森の切り株の上でヴァイオリンがくつろいでいると、
そこへ一人の男が通りがかりました。
背中を丸めて、ひどくおちこんだ様子です。

「こんにちは!」
ヴァイオリンは言いました。
「ずいぶんシケた顔ですね。どう?私を弾いてみませんか?」
男はびっくりして顔を上げると、あたりをキョロキョロと見まわし、
それからヴァイオリンに気が付きました。

「今の声は・・・このヴァイオリンなのか?」
「そうですよ。さあさ、お手に取って、弾いてみそ。」
男はうろたえながら言いました。
「すまないが、楽器は弾けないんだ。
 それに今、私は音楽どころじゃない、人生のどん底にいてもう絶望しそうに・・・」
「かまやしませんって。さ、お手に取って。私が持ち方を教えますから。」
「しかし・・・」
「いいから持てっつってんだろが!!」

ヴァイオリンの剣幕にたじろいだ男は、しぶしぶ彼を手に取りました。
「まず、アゴでここを支えて、左手はもうちょっと下、角度をつけて・・・
 うん、いいですよ。
 じゃあ右手で弓を持って、弦に当ててみて」
男はそっと、弓を弦にこすり合わせました。

その瞬間、弓が勝手に動き出したのです。そして左手も。
ものすごい速さで、男の両手はヴァイオリンを奏でます。
「な、なんだこりゃ。手が勝手に・・・?!」
「いい調子。さあメロディに合わせて体を動かしてみて」
男はヴァイオリンの音に合わせてゆらゆらと揺れ始めました。
やがてなんだか楽しくなって、いつの間にか背筋はぴんと伸び、胸を張って、
口元には笑みが浮かんでいます。
そして・・・

気が付くと、男は空を飛んでいました。
ヴァイオリンを弾きながら、どんどん高く昇り、町の方までやってきました。
「すごい!こりゃあすごいぞ!!」
見下ろすと、町の人たちがびっくりした顔でこちらを見ています。
ヴァイオリンの音に合わせて踊り出す人もいます。
「すごい!なんて楽しいんだ!すばらしい!」
男は夢中になって両手を動かしました。
その時、力を入れ過ぎたのか、弦がバチン!!と音を立てて切れて・・・
男はまっさかさまに落ちていきました。
「うわあー!!!」

叫びながら飛び起きると、
男は自分の部屋のベッドにいました。
「ゆ、ゆめ・・・?」
パニックになった頭を振って、あたりを見回しました。
そこで男は、ふと気づきました。
サイドテーブルの上に、見慣れないヴァイオリンがひとつ、ぽつんと置かれているのを。
「これは・・・」
夢の中で出会ったあのヴァイオリンにそっくりです。

おとこはじっと、ヴァイオリンを見つめていました。
ヴァイオリンも、男を見ていました。
それは長いこと、ふたりは見つめ合っていました。
それから男はふっと口元を緩めると。ヴァイオリンに手を伸ばしました。
そしてそうっと、弓を弦に当ててみました。

外ではちょうど、朝日が昇るところ。
新しい一日が始まろうとするところ。
新しい何かが生まれようとしているところ。
そんな世界の始まりの静寂の中、
か細く澄んだヴァイオリンの音が、あたりに響き始めたのでした。



やさぐれガエルの一生


むかーしむかし、あるところに、一匹のカエルがいました。
カエルは毎日、家でひとり、お酒を呑んでいました。
なぜかというとこのカエル、奥さんに逃げられてしまったのです。
それで、酔っぱらいになって、さみしい気持ちをまぎらわそうと思ったのでした。

けれど本当のところ、カエルは下戸なので、ほとんどお酒が呑めません。

いつもちいさなコップにほんの少しだけお酒をついで、
ちびちびと舐めるように飲んでは、
だらしない格好で座ってみたり、クダを巻いてみたりと、
酔っぱらいのフリをしているのでした。

「うぃー、あぁ酒はウマイ!これがないとやってらんねえぜ。
 人生ろくなもんじゃねえ。もうオレには酒しかねえのさ、うぃー。」

ある日もそうやって、ひとりやさぐれていると、そこへリスがやってきました。

「カエルさんカエルさん、お花見に行かない?
 外にはキレイな花がたーくさん咲いてるよ。」

「なにぃ?このオレに花なんか愛でろって言うのか?冗談じゃねえ!」

「でもカエルさん、お花見のときはみんなお酒を呑むんだよ?」

「なるほど、人間たちがよく桜の木の下でやってるやつか。
 ふむ、悪くない。」

そこでカエルは、リスと一緒に出かけることにしました。

リスが案内したのは一面のお花畑。
菜の花やタンポポやスミレやチューリップ、色とりどりの花が咲いています。

「やいやいやい、こーんなちんまりした花を見ながら酒を呑めってのかい?
 お子様じゃねえんだぞ。」

「いいからいいから。」

リスはにこにこして、カエルにお弁当箱を渡しました。

「なんだよこのおもちゃみたいな弁当は。
 オレは枝豆とかたこわさとかナンコツが・・・」

「まぁまぁちょっと食べてみて。きっと気に入ると思うんだ。」

「しょうがねえなぁ・・・もぐもぐもぐ。お?これ、意外と・・・いけるな。」

「よかった!カエルさん、いっぱい食べてね。」

「おお、こっちもウマイな、ほうほう。」

「よかったらお茶もどうぞ。」

「おお悪いな。あー、いい味だ。」

二人はおいしいお茶とお弁当で、カワイイ野の花を楽しみました。



「ああ、今日は楽しかった。いやはやこんなのは久しぶりだ。」

「ねえカエルさん、もうさ、やさぐれるのはやめて、毎日、今日みたいに楽しく過ごそうよ。
 カエルさん、本当はお酒呑めないんでしょ?」

「ぐっ・・・そ、そういう訳にはいかねえ。こういうのはたまにだからいいんだ。
 オレには明るい陽の元での生活なんて似合わねえのさ。
薄暗くて陰気なとこで呑んだくれてるのがお似合いなんだよ。」

「そうかなぁ・・・?」

リスは首をかしげます。

「あ!じゃあさ、カエルさん、今度は新緑の頃に、川で魚釣りしようよ。
 釣った魚をその場で焼いて食べるの。おいしいよ~。」

「ケッ。だからそんな健全な遊びはオレには無理なんだよ。」

「でも、焼き魚はお酒のおつまみにぴったりだよ?」

「・・・そ、そうか・・・まぁ・・・たまにはそういうのも・・・アリかもな。たまには。」

「やったぁ!じゃあまた誘いに行くね!」

「お、おう・・・。」


家に帰ったカエル、いつものようにだらしなく座って、小さなコップにお酒をつぎます。
そしていつものようにクダを巻いて・・・
でも、心の中ではさっきから、
壁に貼ってあるカレンダーの日付が気になって仕方ないのでした。



【2014.4.2 タイジ17w4d】


泡の中の記憶


晴れた日の午後、散歩中の公園で、ある親子を見た。
父親らしき男性がギターを奏で、幼い男の子が、それに合わせて歌っていた。

ギターを始めたばかりらしい父親のたどたどしい手つきと、
幼い子供のあどけない歌声が重なって、なんとも幸福な気持ちになってくる。

うっとりと聴いているうちに、妙な感覚に襲われた。
子供の歌声にかぶさって、だれか他の声が聴こえる。
もっと太くはっきりした、大人の男の声。とてもよく知っている声。
ああ、そうだ。この歌は、父がいつも口ずさんでいた歌だ。

大きなのっぽの古時計 おじいさんの時計

私はそれを、どこで聴いていたんだろう。
そうだ。一緒にいたんだ。
まだ私が3歳か4歳くらいの頃。
父は私をよく、お風呂に入れてくれていた。

父は厳しい人で、また、短気でもあった。
泣き虫の私は、いつも父に叱られていた。
叱られると怖くて、悲しくて、もっと泣いてしまう。
挙句、父に見放されてしまう。
いつしか私にとって、父は恐怖の対象となった。
父が家にいると、いつ叱られるかと、落ちつかなかった。

父にしてもらったことなんて、ほとんどないと思っていた。
記憶の中の父はいつも不機嫌そうで、私は部屋の隅で怯えておとなしくしていた。
本も読んでくれないし、一緒に遊んでもくれない。
たまにお酒を飲んで機嫌がよくなって話しかけてきても、
私がおどおどしているとすぐに怒り出して、結局いつも怒鳴られた。

でも今、こんなにも鮮明に思い出せる。
私の頭をぐしゃぐしゃと洗ってくれる父の大きな手。
頭の上から聴こえるあの歌。

大きなのっぽの古時計 おじいさんの時計

お気に入りの歌のくせに、歌詞を全然覚えてなくって、その先はいつも「るるる~」でごまかしてた。
何度も私を呼ぶ声。記憶の波が押し寄せてくる。
おかしいな。
怒った顔しか見たことないと思っていたのに、今思い出す父の顔は、優しく笑っている。

泡だらけの私の髪を洗い流す、優しい手。

ちゃんと目をつぶっとけよ。お湯かけるからな。よしよし、大丈夫やったか?

愛されていたこと、きちんと態度で示してくれていたこと。
叱られたときの恐怖の影に隠れて、すっかり見えなくなっていたこと。
幾重にも重なって、押し寄せてくる。
何度も何度も、鮮やかに甦ってくる。

私は、愛されていた。
あの大きな手に、いつも守られていた。

今、そっとくちずさんでみる。
あの頃の父と同じ歳になった私。

大きなのっぽの古時計 おじいさんの時計
百年いつも動いていたご自慢の時計さ

私の方が、どうやら覚えはいいみたいだ。
今度実家に帰ったら、お風呂で歌ってみようか。
少し大きな声で。父に届くように。
そんなことを思った。


プロフィール

リキタケカズヨ

Author:リキタケカズヨ
声と言葉で世界を変えていく、
子どもであり、大人であり、アーティストであるところの人。

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