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夕暮れのカフェでの出来事

ある日の夕暮れ、所用で都内の某下町にひとり出かける。
軽めの夕食を取るため、目についたカフェに入った。
街でよく見かける、やや高級感を売りにした感じのチェーン店である。
この手の店は、庶民派のカフェと比べると、コーヒー1杯の値段は3倍ほどするが、
そのぶん落ち着いてくつろげるオトナ空間(場所によってはジジババの社交場)となっているので、
そろそろいいオトナである私には、なかなか快適な場所。

スタンダードなタイプのホットサンドを注文してから、
読みかけていた本を取り出し、しばし読書に耽っていると、
アルバイトと思しき若い女の店員さんが、料理を運んできてくれた。

がさつという程ではないけれど、どことなく無造作というか、
自分の体が指先まで存在していることを自覚していないような感じの動きで、
音にするなら、べしゃ、とか、ぼとっ、とかいう感じで(実際にそんな音がしたわけではなく、あくまでもイメージ)私の前にフォークと皿を置き、
マニュアル通りの台詞で注文の品が揃ったことを確認した彼女は、
こちらに一瞥もくれずに去って行った(決して機嫌が悪いわけではなく、彼女にとってはこれが普通なのだと思う)。

いかにもアルバイトな感じといえばそれまでだが、
チェーンとはいえ、ちょっとお高いこのお店。
スタッフの教育はもう少ししっかりやった方がいいのではなかろうか。
お客の年齢層も高いし、めんどくさいじいさんとかに捉まったら、いろいろめんどくさいぞ?
・・・などと、そんなお前こそがめんどくさいよという感じの老婆心を抱きつつ、フォークに手を伸ばした時、私は違和感に気付いた。

あれ・・・フォークの向き、逆やで。

フォークはお箸を並べる時のように、横向きに置かれていたのだが、
その場合、通常は持ち手を右にセットされるはずだ。
しかし私の目の前にあるそれは、持ち手を左側にして置かれていた。

いや、もちろん構わないのだ。
フォークの向きなんて、縦だろうが横だろうが裏返っていようが、一向に困ることはない。
ファミレスにいけば、向き云々以前に、フォークを取り出すところからセルフなのだし、
目の前にセットしていただけるだけで十分ありがたいことなのである。

しかし。
このチェーンとはいえ、ちょっとお高くとまったこのお店で、
この待遇はいかがなものか。
店に漂う高級感が台無しになってしまっているが。

・・・いや?
もしかしてこれは、彼女がわざとやったことなのでは?!
もしかして、私が店内に入ってからの挙動を丹念に観察して、
「あ、この人、左利きなんだわ」と鋭く見抜き、
さりげなくフォークの向きを逆にしたのではあるまいか?!

でも私、思いっきり右利きですけど。

しかしもしかして、私の挙動の中に、
明らかに左利きの人間しかしないようなことが含まれていたのかもしれない。
だとしたら、大変申し訳ないことをした。
彼女にはまったくの濡れ衣だ。

私は心の中で彼女に詫びてから、フォークを手に取り、付け合わせのサラダを食べ始めた。
おいしい。
近ごろ野菜不足だった私の体は、嬉々として野菜の養分を吸収していく。

が・・・なんか食べにくい。
大きな皿の上に、サラダの入った小皿とホットサンドが配置されているのだが、
このサラダの小皿が、なんとも手を伸ばしにくい位置にあるのだ。
この配置では、サラダを食べにくいし、なおかつホットサンドもなんだか取りにくい。
そういえば見た目もあまりパッとしないような・・・?

そう思いながらふと顔を上げると、テーブル脇に置かれたメニューの写真が目に入った。
自分が注文したホットサンドの写真を見た時、
私は違和感に気付いた。

あれ・・・お皿の向き、逆やで。

メニューの写真にあるそれと、私の目の前にあるそれとは、
180度向きが逆だったのである。
試しに皿をくるっと回してみると、あら不思議。
料理はすこぶる食べやすいうえに、ホットサンドもとても美しく見える。

いや、もちろん構わないのだ。
ホットサンドが私に背を向けていようが、サラダが取りにくかろうが、
自分でいいように配置を変えればいいだけのことだ、一向に困ることはない。
ファミレスにいけば、向き云々以前に・・・以下略。
とにかく目の前に料理を運んでいただけるだけで十分ありがたいことなのである。

しかし。
このチェーンとはいえ、セレブ感を売りにしているこのお店で、
この待遇はいかがなものか。
店に漂う雰囲気が、もはやお安いコーヒーショップと同等に思えてきてしまっているが。

・・・いや?
もしかしてこれは、彼女がわざとやったことなのでは?!
もしかして、私が店内に入ってからの挙動を丹念に観察して、
「あ、この人、ホットサンドを裏から見るのがたまらなく好きなんだわ」と鋭く見抜き、
さりげなく皿の向きを逆にしたのではあるまいか?!

あるいは、大切な人を亡くした私が、彼と通った思い出のこの店で、
あたかも私の向かいの席に彼が座っているかのようにイメージして、
彼が大好きだったホットサンドを一緒に食べようと思っていることを見抜き、
架空の彼の方へ向けてホットサンドを配置してくれたのかもしれない。
そんな粋な計らいだったのかもしれない。

もちろん私には、そんなおかしな性癖も、亡くした人もいないが、
しかしもしかして、私の挙動の中に、
明らかにそのような人間しかしないようなことが含まれていたのかもしれない。
だとしたら、大変申し訳ないことをした。
濡れ衣の重ね着だ。

私は彼女の壮大な想像力に思いを馳せつつ、静かに料理を味わった。

世の中は実に不可思議で、多面性に満ちている。

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