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泡の中の記憶


晴れた日の午後、散歩中の公園で、ある親子を見た。
父親らしき男性がギターを奏で、幼い男の子が、それに合わせて歌っていた。

ギターを始めたばかりらしい父親のたどたどしい手つきと、
幼い子供のあどけない歌声が重なって、なんとも幸福な気持ちになってくる。

うっとりと聴いているうちに、妙な感覚に襲われた。
子供の歌声にかぶさって、だれか他の声が聴こえる。
もっと太くはっきりした、大人の男の声。とてもよく知っている声。
ああ、そうだ。この歌は、父がいつも口ずさんでいた歌だ。

大きなのっぽの古時計 おじいさんの時計

私はそれを、どこで聴いていたんだろう。
そうだ。一緒にいたんだ。
まだ私が3歳か4歳くらいの頃。
父は私をよく、お風呂に入れてくれていた。

父は厳しい人で、また、短気でもあった。
泣き虫の私は、いつも父に叱られていた。
叱られると怖くて、悲しくて、もっと泣いてしまう。
挙句、父に見放されてしまう。
いつしか私にとって、父は恐怖の対象となった。
父が家にいると、いつ叱られるかと、落ちつかなかった。

父にしてもらったことなんて、ほとんどないと思っていた。
記憶の中の父はいつも不機嫌そうで、私は部屋の隅で怯えておとなしくしていた。
本も読んでくれないし、一緒に遊んでもくれない。
たまにお酒を飲んで機嫌がよくなって話しかけてきても、
私がおどおどしているとすぐに怒り出して、結局いつも怒鳴られた。

でも今、こんなにも鮮明に思い出せる。
私の頭をぐしゃぐしゃと洗ってくれる父の大きな手。
頭の上から聴こえるあの歌。

大きなのっぽの古時計 おじいさんの時計

お気に入りの歌のくせに、歌詞を全然覚えてなくって、その先はいつも「るるる~」でごまかしてた。
何度も私を呼ぶ声。記憶の波が押し寄せてくる。
おかしいな。
怒った顔しか見たことないと思っていたのに、今思い出す父の顔は、優しく笑っている。

泡だらけの私の髪を洗い流す、優しい手。

ちゃんと目をつぶっとけよ。お湯かけるからな。よしよし、大丈夫やったか?

愛されていたこと、きちんと態度で示してくれていたこと。
叱られたときの恐怖の影に隠れて、すっかり見えなくなっていたこと。
幾重にも重なって、押し寄せてくる。
何度も何度も、鮮やかに甦ってくる。

私は、愛されていた。
あの大きな手に、いつも守られていた。

今、そっとくちずさんでみる。
あの頃の父と同じ歳になった私。

大きなのっぽの古時計 おじいさんの時計
百年いつも動いていたご自慢の時計さ

私の方が、どうやら覚えはいいみたいだ。
今度実家に帰ったら、お風呂で歌ってみようか。
少し大きな声で。父に届くように。
そんなことを思った。


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Author:リキタケカズヨ
声と言葉で世界を変えていく、
子どもであり、大人であり、アーティストであるところの人。

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