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空飛ぶヴァイオリン


あるところに、ヴァイオリンがいました。
ふつうとはちょっとちがう ふしぎなヴァイオリンです。

ある日、森の切り株の上でヴァイオリンがくつろいでいると、
そこへ一人の男が通りがかりました。
背中を丸めて、ひどくおちこんだ様子です。

「こんにちは!」
ヴァイオリンは言いました。
「ずいぶんシケた顔ですね。どう?私を弾いてみませんか?」
男はびっくりして顔を上げると、あたりをキョロキョロと見まわし、
それからヴァイオリンに気が付きました。

「今の声は・・・このヴァイオリンなのか?」
「そうですよ。さあさ、お手に取って、弾いてみそ。」
男はうろたえながら言いました。
「すまないが、楽器は弾けないんだ。
 それに今、私は音楽どころじゃない、人生のどん底にいてもう絶望しそうに・・・」
「かまやしませんって。さ、お手に取って。私が持ち方を教えますから。」
「しかし・・・」
「いいから持てっつってんだろが!!」

ヴァイオリンの剣幕にたじろいだ男は、しぶしぶ彼を手に取りました。
「まず、アゴでここを支えて、左手はもうちょっと下、角度をつけて・・・
 うん、いいですよ。
 じゃあ右手で弓を持って、弦に当ててみて」
男はそっと、弓を弦にこすり合わせました。

その瞬間、弓が勝手に動き出したのです。そして左手も。
ものすごい速さで、男の両手はヴァイオリンを奏でます。
「な、なんだこりゃ。手が勝手に・・・?!」
「いい調子。さあメロディに合わせて体を動かしてみて」
男はヴァイオリンの音に合わせてゆらゆらと揺れ始めました。
やがてなんだか楽しくなって、いつの間にか背筋はぴんと伸び、胸を張って、
口元には笑みが浮かんでいます。
そして・・・

気が付くと、男は空を飛んでいました。
ヴァイオリンを弾きながら、どんどん高く昇り、町の方までやってきました。
「すごい!こりゃあすごいぞ!!」
見下ろすと、町の人たちがびっくりした顔でこちらを見ています。
ヴァイオリンの音に合わせて踊り出す人もいます。
「すごい!なんて楽しいんだ!すばらしい!」
男は夢中になって両手を動かしました。
その時、力を入れ過ぎたのか、弦がバチン!!と音を立てて切れて・・・
男はまっさかさまに落ちていきました。
「うわあー!!!」

叫びながら飛び起きると、
男は自分の部屋のベッドにいました。
「ゆ、ゆめ・・・?」
パニックになった頭を振って、あたりを見回しました。
そこで男は、ふと気づきました。
サイドテーブルの上に、見慣れないヴァイオリンがひとつ、ぽつんと置かれているのを。
「これは・・・」
夢の中で出会ったあのヴァイオリンにそっくりです。

おとこはじっと、ヴァイオリンを見つめていました。
ヴァイオリンも、男を見ていました。
それは長いこと、ふたりは見つめ合っていました。
それから男はふっと口元を緩めると。ヴァイオリンに手を伸ばしました。
そしてそうっと、弓を弦に当ててみました。

外ではちょうど、朝日が昇るところ。
新しい一日が始まろうとするところ。
新しい何かが生まれようとしているところ。
そんな世界の始まりの静寂の中、
か細く澄んだヴァイオリンの音が、あたりに響き始めたのでした。



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リキタケカズヨ

Author:リキタケカズヨ
声と言葉で世界を変えていく、
子どもであり、大人であり、アーティストであるところの人。

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